気づいたら、病院のベッドに横になっていた。医師が、自分の手首を指して聞いた。「これなんて言う?」
「時計やろ。なんでそんなこと聞くん?」
そう思ったが、言葉が出てこない。「とけい」と言うには、どう口を動かせばいいのかわからなかった。
大阪府に住む梶(かじ)彰子さん(61)が失語症になったのは2014年、50歳のときだった。買い物に行く途中で路線バスにはねられた。頭を強く打ち、2日後には脳梗塞(こうそく)を発症した。10日ほど経ってようやく意識は戻ったが、状況がのみこめなかった。事故のこともおぼえていなかった。
ショックだったのは、体中いたるところが骨折し、寝たきりになったことだった。動くと痛い。スプーンも持てない。顔は「鏡で見ない方がいい」と言われた。
失語症は「ほんまになるんや」と思ったぐらいで、あまり深刻に考えていなかった。医師にも「リハビリで治る」と言われた。
だが、そのリハビリが想像以上に大変だった。
失語症は脳の言語中枢が損傷…